
展示内容
電子や光子といった個々の量子の振るまいや、複数の量子間の相関(量子もつれ※1)を制御することで、従来の技術の限界を超える量子科学技術が注目されています。特に2025 年は、現在の量子科学の端緒となった1925年のハイゼンベルクらによる行列力学の構築から100 周年の節目の年になることから、国連総会は2025年をユネスコの「国際量子科学技術年」として宣言しました。
一方、京都大学はノーベル賞を受賞した、湯川秀樹博士、朝永振一郎博士、福井謙一博士を始めとする多くの研究者らが量子科学の発展に長年貢献し続けています。その中で、京都大学大学院工学研究科の竹内繁樹教授の研究グループでは、量子としての光の振るまいを長年研究し、量子もつれや量子干渉について多くの成果を上げ、また量子もつれの性質を利用した新たなセンシング技術である光量子センシングの研究を推進しています。
このような、量子もつれやそれを用いた量子科学技術の進展にともない、「量子もつれ」という言葉も聞かれるようになってきました。しかし、量子もつれ状態にある光や、そこにみられる、2022年のノーベル物理学賞の受賞対象になった「ベルの不等式のやぶれ」などの、量子もつれに関係する不思議な現象に関し、その場で実際に動作する装置での展示は知る限りにおいて今までなく、一般の方が直接見たり触れたりする機会はありませんでした。
今回、竹内繁樹教授らの研究室メンバーを中心とし、京都大学総合研究推進本部、京都大学成長戦略本部、京都大学総合博物館、及び京都大学桂地区事務部などからなる京都大学万博量子展示チーム(下記に詳細記載)は、「量子もつれ」の不思議な世界を、実際に量子もつれ光子対を利用したその場で実際に動作している装置により体験するという、一般公開では知る限り国内初となる展示を行います。また、島津製作所やsantec Holdingsなどの協力を得て、従来の技術の限界を超える、量子もつれ光を用いた「光量子センシング」技術とその社会への波及についても紹介します。
展示キャラクター「ミツコ」について
会場で見られる様々な映像にミツコが登場し、装置で体験できる光子の驚くべき現象を解説します。

ZONE1 プロローグ
ミツコの映像による物語が、光の最小単位が光子であること、その光子の特徴、もつれ光のイメージを説明します。
ZONE2 実験! 双子の光子のふしぎな世界
京都大学の研究者自らが制作した最先端の光量子もつれの3つの実験装置を動作させ、来場者に不思議な現象を体験していただきます。
装置1双子の光子はこうして生まれる~「量子もつれ光」の発生~
量子もつれ光を実際に発生させ、その場で発生している量子もつれ光の映像を展示します。
装置2見分けがつかない双子の光子、出会って、通って、どこいった?~「二光子量子干渉」の実験~
量子力学の世界では、複数の物理過程の間で干渉が生じ、本来起こるはずの現象が生じなくなる場合があります。光子の対を半透鏡に入射する実験で体験していただきます。
装置3遠く離れても関わり合う光子たち~「ベルの不等式の破れ」の実証~
物理現象はその場所での物体の状態で決まる(局所実在性)ということが、量子の世界では成り立ちません。その事を検証した2022年のノーベル物理学賞の対象の「ベルの不等式のやぶれ」の実験を、量子もつれ光子対を用いた実験装置で体験していただきます。
ZONE3 いこう! 双子の光子が変える未来
従来の技術の限界を超える量子もつれ光をもちいた「光量子センシング」技術について体験型の展示で紹介し、私たちの未来の日常がどのように変わっていくかを想像していただきます。
量子光干渉断層撮影装置(Q-OCT)(展示装置協力:santec Holdings)
来場者に、OCT装置を用いて自分の指の内部を観察できることを体験してもらい、量子もつれ光を用いたQ-OCTにより分解能が大きく向上できることを、解説映像と測定データを通じて説明します。
量子赤外分光装置(展示担当:島津製作所)
来場者に、赤外吸収分光装置を利用して分子認識ができることを体験してもらい、量子もつれ光を用いた量子赤外分光では、解説映像と未来の姿を示したモックアップにより、大幅な小型化が可能となることを説明します。
エピローグ ~光量子センシングのこれから~
量子力学の発展と京都大学との関わりについて、1900年からの年表で一望するとともに、量子もつれ光を用いた「光量子センシング」技術とその社会への波及について説明します。また京都大学に発足した「光量子センシング社会実装コンソーシアム」での取り組みを紹介します。